伊吹山
Mt.Ibuki伊吹山(いぶきやま、いぶきさん)は、滋賀県米原市、岐阜県揖斐郡揖斐川町、不破郡関ケ原町にまたがる伊吹山地の主峰(最高峰)標高1,377mの山である。一等三角点が置かれている山頂部は滋賀県米原市に属し、滋賀県最高峰の山である。山域は琵琶湖国定公園に指定されている。
概要
古くから霊峰とされ、日本書紀においてはヤマトタケルが東征の帰途に伊吹山の神を倒そうとして返り討ちにあったとする神話が残されている。日本百名山、新・花の百名山、一等三角点百名山、関西百名山、近畿百名山、ぎふ百山の一つに選定されている。
「伊吹山」の読み方について、国土地理院の登録された山名をはじめ、地図や道路標識などの振り仮名は「いぶきやま」となっており、伊吹山の山麓地域では「いぶきやま」と呼ばれる。一方、「いぶきさん」という呼び方も存在し、滋賀県の伊吹町では「いぶきやま」、美濃尾張方面では「いぶきさん」とする名鑑があるほか、滋賀県内の伊吹山に近い地域では「いぶきやま」、遠い地域になるほど「いぶきさん」と呼ぶ傾向があるとも言われている。岐阜県でも滋賀県と同様の傾向がある。滋賀県、岐阜県、愛知県、三重県の多くの学校の校歌で「伊吹山」に関する語句が歌われいる。
気候
伊吹山は冬に日本海側からの季節風の通り道となり、濃尾平野では、冬季に北西の方角から吹く季節風を「伊吹おろし」と呼ぶ。亜寒帯湿潤気候で雪も非常に多く、1927年2月14日には世界最深積雪記録となる積雪量1182cmを記録しており、現在でもこの記録は破られていない。また、旧平年値(1971-2000)における月別平均気温は稚内とほぼ同じ値となっている。以下、データは2001年3月31日に観測を終了した伊吹山測候所の記録である。
登山
明治以降に近代登山の対象となった。伊吹山の麓は古くから交通の要所であったため交通の便が良く、中京圏や京阪神からも日帰り登山が行われている。1965年には伊吹山ドライブウェイが開通してバスや自家用車で9合目まで訪れることができるようになり、山頂を訪れる観光客が増加した。7-8月には山頂でご来光を迎える夜間登山者もある。登山適期は4月から11月中旬頃までで、冬は積雪量が多くラッセルが必要となり、強風で厳しいルートとなる場合がある。
登山ルート
表登山道
南東山麓の米原市上野から南西斜面のスキー場跡地を経由して山頂に至るルートである。年間、約30,000人の利用者がある。登山口のすぐ近くにバス停があり、登山届記入提出場所がある。伊吹山ゴンドラを利用して3合目まで上がることもできる(2014年は営業が行われていない。)。このルートの一部にもなっている滋賀県道268号伊吹山上野線は3合目まで自動車が通行できるように整備されているが、一般車両の通行は禁止されている。3合目から5合目まではスキー場跡地を登り、夏期はキャンプ施設や休憩施設、売店小屋が営業している。5合目から9合目にかけては次第に急勾配となり、つづら折れの登山道が続く。このルートは下部の植林地の樹林帯を除き全般的に谷間や森を通らないため、展望は開けるが日差しを遮るものがない。9合目から山頂部にかけてはロープが張られたお花畑の遊歩道が整備されている。
弥高尾根(やたかおね)道
米原市弥高から南の尾根を登るルートで、三角点「城跡」(標高838.7m)でから先は、はっきりしない道となる。標高900m付近からトラバースして上野登山道の5合目に合流する。
上平寺尾根(じょうへいじおね)道
米原市上平寺から弥高尾根の東にある尾根を上り、三角点「城跡」で弥高尾根に合流する。登道上には上平寺城本丸跡の草地の広場がある。弥高尾根と上平寺尾根が合流した先は、山頂まで延びる中尾根と呼ばれる尾根があり、かつては山頂に至る道があったとされている。中尾根の途中から川戸谷を横切って南東尾根から笹又に至る横がけ道があったことが『伊吹町史』に記録されている。
北尾根コース(伊吹北尾根縦走路)
伊吹山山頂の北側で岐阜県と滋賀県の県境をなす尾根は伊吹北尾根と呼ばれている。笹藪と雑木に覆われていて歩行困難であったが、大垣山岳協会の延べ1,000人程の会員により、1960年(昭和35年)から3年がかりで藪などが切り開いて伊吹山ドライブウェイの北尾根登山口から国見峠に至る、伊吹北尾根縦走路が開設された。大垣新道と呼ばれることもあり毎年麓の揖斐川町春日の人々による整備が行われている。御座峰の山頂にはこの縦走路開削を記念して、1999年(平成11年)10月に大垣山岳協会により記念の案内板が設置された。ただし、伊吹山ドライブウェイは自動車専用道であるため、伊吹山の山頂へ歩いて行くことはできない。
笹又登山道
岐阜県揖斐川町春日川合のさざれ石公園から静馬ヶ腹で伊吹北尾根に合流するルートである。薬草などが栽培されている農地の周囲には鹿などによる害獣対策として防護柵が設置され、登山者用の出入り口の扉がある。上部は伊吹山ドライブウェイと並行するトラバース道となり、北尾根で「静馬ヶ腹」と呼ばれるコルに至る。
山小屋と施設
山頂には5軒の売店が営業していて、季節によっては一部の店が日中の売店営業だけでなく夜間登山の仮眠所(収容人数350人)として開いている。営業期間外は閉鎖される。山頂から日の出を迎えるために夜間登山も盛んに行われ、週末の深夜などは登山者が携行する電灯が山肌に列をなして見られることがある。上野からの登山道の3合目には自生する山野草の観察路が設置され、5合目には売店、自動販売機、休憩所があり、6合目には米原市により避難小屋が設置されている。3合目の伊吹山ゴンドラ終点駅の高台には、伊吹高原ホテルの建物があるが営業されていない。山頂部にある伊吹山寺のお堂は、冬期に緊急避難場所として一部が開放されることがある。山頂一帯はテント泊などのキャンプが禁止されている。山頂の一等三角点の近くには伊吹山測候所があったが、2001年に観測業務を終了し、2010年に撤去された。
観光
麓から山頂直下に至る伊吹山ドライブウェイが、ドライブの自家用車や観光バス、路線バスなどにより利用されている。終点の駐車場からは、山頂部の自然庭園のお花畑をめぐる遊歩道が整備され、山頂部には売店群がある。
伊吹山ドライブウェイ
岐阜県関ケ原町から東尾根を登って9合目まで至る有料道路で、9合目には500台以上を収容できる駐車場のほか、展望設備や飲食店、売店を営業している。この道路を利用した自転車ヒルクライム競技も行われている。山上で猛禽類などの野鳥観察のために利用されることもある。2013年に終点駐車場の観光施設が建て替えられて、スカイテラス伊吹の展望台が設置された。積雪期には営業を休止し閉鎖される。
山頂遊歩道
山頂周辺には高山植物を含む野草群落が花畑として保護されており、夏季には色とりどりのお花畑となる。伊吹山ドライブウェイ終点の駐車場からは遊歩道が整備されている。遊歩道は3本が整備されていて、20分ないし40分程度で山頂に到達できる。年間約30万人の利用者がある。
伊吹山文化資料館
南西山麓の滋賀県米原市春照77に、1998年(平成10年)3月に、伊吹山地とその山麓の自然と文化を主なテーマとした「伊吹山文化資料館」が開設された。
伊吹薬草の里文化センター
南西山麓の滋賀県米原市春照37に、「伊吹薬草の里文化センター」(ジョイ伊吹)の複合施設が開設されている。薬草の古い歴史をもつ旧伊吹町により、前庭に野草園が開設されている。生涯学習センター、 図書室 、ジョイホール、グロウブステージ、薬草湯などの施設がある。薬草湯の入浴施設には露天風呂があり、北東に伊吹山を望むことができる。
夢高原かっとび伊吹
毎年8月下旬の日曜日に、山岳マラソン大会の「夢高原かっとび伊吹」が開催されている。滋賀県米原市にある伊吹薬草の里文化センターを起点として、伊吹山の頂上をゴールとする約10kmのコース。前半のスタート地点から一合目までは舗装路(約4.5 km)で、後半の一合目から山頂までは登山道(約5.5 km)、高低差(1,197m)。約1,000人ほどが参加している。
伊吹山パラグライダースクール
上野からの伊吹山登山道の1合目上部の旧伊吹山スキー場のゲレンデが、パラグライダー発着場として利用されている。1合目に事務所を構え、パラグライダーの講習や体験飛行を行っている。
さざれ石公園
東山麓の揖斐川町にあり、日本の国歌「君が代」にも詠まれるさざれ石が伊吹山で採掘されると説明している。1977年(昭和52年)11月18日に、西山腹の岐阜県揖斐郡揖斐川町の「笹又の石灰質角礫巨岩」(重さ約50 t)が、岐阜県の天然記念物の指定を受けた。伊吹北尾根の登山口となっている。
地理
伊吹山から望む養老山地と鈴鹿山脈、これらに囲まれた関ケ原町中心部などは狭小地となり、歴史的にも交通の要所となっている。
伊吹山は本州のほぼ中央にあり、若狭湾と伊勢湾に挟まれた、狭ばった地理に位置する。伊吹山と南の養老山地と鈴鹿山脈に挟まれた南山麓の関ケ原は、歴史的にも東国と西国との関門として交通の要所となっている。
伊吹山地
両白山地(越美山地)の南端の三国岳(福井県、岐阜県、滋賀県との県境)から伸びる尾根を中心とした伊吹山地の最高峰。半独立峰で、伊吹山地の最南端に位置する。山頂からは360度にわたって遠方を見渡すことができ、琵琶湖、白山、御嶽山、濃尾平野などが展望できる。南東の濃尾平野からは伊吹山を望むことができ、多くの学校の校歌で歌われている。
伊吹北尾根
北側の国見峠へ延びる稜線上の御座峰、大禿山、国見岳をつなぐ尾根は、「伊吹北尾根」と呼ばれている。
名称 | 標高 (m) | 三角点等級 基準点名 |
---|---|---|
国見岳 | 1,126 | |
大禿山 | 1,083 | |
御座峰 | 1,070.04 | 三等 「板波」 |
周辺の主な山
南側の天野川と牧田川を挟んで、鈴鹿山脈と養老山地が対峙している。
名称 | 標高 (m) |
三角点等級 基準点名 |
備考 |
---|---|---|---|
金糞岳 | 1,317 | 滋賀県の第2高峰 | |
小谷山 | 494.52 | 三等「大岳」 | 新・花の百名山 |
池田山 | 923.85 | 二等「池田山」 | 池田の森 |
霊仙山 | 1,094 | 二等「霊仙山」 | 花の百名山 |
養老山 | 895.31 | 二等「養老山」 | 養老山地 |
御池岳 | 1,247 | 鈴鹿山脈最高峰 花の百名山 |
|
藤原岳 | 1,144 | (標高未確定) | 日本三百名山、花の百名山 新・花の百名山 |
周辺の峠
静馬ヶ原 - 山頂の北東1.6 kmの伊吹山と御座峰との鞍部、標高約1,100m、笹又からの登山道と伊吹北尾根との合流点。
国見峠 - 山頂の北5.5 kmの国見岳と虎子山との鞍部、標高約840m、岐阜県道32号春日揖斐川線と滋賀県道・岐阜県道40号山東本巣線を結ぶ林道が通る。伊吹北尾根の登山道の登山口。
源流の河川
伊吹山を源とする河川には、琵琶湖へ流れる淀川水系と、濃尾平野の河川へ流れる木曽川水系がある。伊吹山と伊吹北尾根はその西側の淀川水系と東側の木曽川水系との分水界となっている。
- 姉川(淀川水系)
- 長谷川(木曽川水系、粕川の支流)
- 藤古川(木曽川水系、牧田川の支流)
- 相川(木曽川水系、牧田川の支流)
交通・アクセス
公共交通機関
上野登山口へは、JR東海の東海道本線近江長岡駅が最寄りの鉄道駅で、5km弱の道のりである。登山口近くには「伊吹登山口」バス停があり、近江長岡駅またはJR西日本の北陸本線長浜駅から湖国バスが路線バスを運行している。登山口の3合目までタクシーを利用することもできる。
伊吹山ドライブウェイの9合目駐車場へは、JR西日本の東海道本線大阪駅桜橋口またはJR東海の東海道本線名古屋駅から名神ハイウェイバスを運行しているほか、夏期にはJR東海の東海道本線大垣駅と関ヶ原駅から名阪近鉄バスが路線バスを季節運行している。
自動車
上野登山口へは、北陸自動車道の長浜インターチェンジまたは名神高速道路の関ヶ原インターチェンジから国道365号や滋賀県道551号山東伊吹線を経由して10km程度の道のりで、登山口近くでは民家や民間の有料駐車場がある。
伊吹山ドライブウェイ入口へは、関ヶ原インターチェンジから国道365号を経由して3km程度の道のりである。
南西山麓を通る坂浅東部広域農道沿いの滋賀県道40号山東本巣線との交差点南西部に道の駅伊吹の里があり、2階には伊吹山展望デッキがある。
伊吹山の風景
各方面からの山容
麓の近江盆地、濃尾平野、東海道本線や東海道新幹線の車窓などからもそのどっしりとした山容を望むことができる。西斜面では石灰岩採掘のために削り取られた山肌が目立ち、景観を害している。西山麓の米原市の三島池からもその山容を望むことができ、名景とされている。南側にある清滝山(標高439m)の山頂は、伊吹山を間近に望むことができる展望台となっている。東の池田山からは山容を望むことができるが、南東にある南宮山の登山道からは、ほとんど山容を望むことができない。南南東の養老山地の笙ヶ岳からは山容を望むことができるが、養老山からは望むことができない。南の鈴鹿山脈の霊仙山からは、どっしりとした山容を望むことができる。